『孔子』を読んで
心の栄養。 核戦争で地球が滅びる恐れが現実に存在するいま、この本の言葉が大きな意味を持つ。 「子は人間というものの将来を、いつも明るく、ごらんになっておられました。人間というものは、自分達の種族を絶滅させるほど、それほど愚かではない。」 「自分の生のある時代に、明るい人間社会、平和な国家関係、そうした平和を基調とした明るい世界を見ることのできないのは、返す返すも残念だが、そうした時代は、自分の死後、必ずやって来る。」
二千五百年前、春秋末期の乱世に生きた孔子の人間像を描く歴史小説。『論語』に収められた孔子の詞はどのような背景を持って生れてきたのか。十四年にも亘る亡命・遊説の旅は、何を目的としていたのか。孔子と弟子たちが戦乱の中原を放浪する姿を、架空の弟子が語る形で、独自の解釈を与えてゆく。現代にも通ずる「乱世を生きる知恵」を提示した最後の長編。野間文芸賞受賞作。
人間を見捨てない。 この態度が、人間を救う。 人間を見捨てた先に、幸せはあり得ない。 「人間はこの地球上に生まれて来たからには、いかに世が乱れようと、最低限の倖せ、『やはり、この世に生まれてきただけのことはあった。生まれてきてよかった!』―そういうぎりぎりの倖せだけは、確保しなければならぬ」 「いかに世が乱れようと、人間から、故里というものだけは、奪り上げてはならない。若し奪り上げてしまったら、当然、替りのものを返さなければならぬ。それが政治というものである。」